Vol.61 セドリック・グロレ

 7月がやっと夏を連れてきた。紺碧の空と輝く日差し、吹き抜ける爽やかな風、湿度の少ない乾いた空気に気分も明るくなる。街に外国からの人達が増えてきた。何時もは常連で溢れるカフェの席もいつの間にかツーリストの指定席と変わってしまった。パリという街は不思議な所で、人種の坩堝であるにも拘らず、よそから訪れた人とここに住む人の見分けが易い。理由は解らないが無意識に培われた感覚がそうさせるのかも知れない。

 世界で一番観光客が多い街と言われるパリだが、特に7、8月は世界中からの旅行者が数多く訪れる。普段余り目にしない中南米系の人達が多いのもこの月である。彼等にとってヨーロッパは先祖の故郷という意識が強いと聞く。特にパリという街は憧れの対象だそうだ。それだけに旅行者に対する市の対応も敏感、何事にも最優先の感じだ。サービスの一環、市民と旅行者の交流の場ともなっているパリ・プラージュを始め革命記念日の花火、ツール・ド・フフランス最終日などなど各種イヴェントが目白押しである。

 

 今や恒例となったジャパン・エキスポが今年もパリ郊外にある国際展示会場で開催された。今年で14回目を迎えるというこの催しに初めて出かけてみた。4日間の開催期間中凡そ20万人の参加者があるという。

 

 パリから郊外電車に乗り、シャルル・ド・ゴール空港のひとつ手前、パーク・ド・エキスポジション駅で降りる。改札を出て階段を上がると目の前に大きな展示会場があり、前の広場ではコスプレ姿に変身中の大勢の若者達が集まっている。

 会場に入るとそこは巨大なお祭り広場であった。ありとあらゆるコスプレ姿の男女が会場内を彷徨。カメラマンの前でポーズをとる者、仲間同士で写真を撮り合う者、その殆どが十代と思える若者達である。中には幼い子供同伴、お揃いのコスプレも居たり、魔女に変身した結構お年のマダムも居る。

 

 マンガ、アニメ、ゲームがこのイベントの3大テーマ、各企業の力の入れようにも熱が入る。それぞれのブースを設け独自のイベントを開催、集客競争も加熱状態だ。別の会場ではコスプレ用品を売るスタンドやお土産品の店、たこ焼き、焼きそばなどの食事処ありと、日本の祭り屋台を再現したような賑わい振りである。その他コスプレ大会や各種武道のデモンストレーション、囲碁、将棋、麻雀クラブなどもあり、中で対局を楽しむ人も結構居る。非日常の世界にこれほどの若者が集まる事に改めて驚いた。日本からの参加者も多い。又地方自治体のPR、今年は熊本県と滋賀県からそれぞれくまモン、ひこにゃんのゆるキャラ参加もあった。

 人によって受け取り方は色々だが、これがジャパン・エキスポの看板を掲げるイベントかの感はある。出展しているメーカーや店の半数以上はフランス企業、売られる商品も彼らが作った日本イメージの物が多い。硬い事を言わないで、ここは別の世界だよの空耳に納得する事にした。

 洋の東西を問わず、ある種天才又はそれに類する人は、子供の頃からその才を発揮するようだ。パリの代表的なホテルのひとつ、ル・ムーリスのパティスリー・シェフに27歳という若さで抜擢されたセドリック・グロレもそんなひとりと言われる。

 


 ニュースとしては少し古くなるが、5月24日ル・ムーリスでパティスリー部門の新しいシェフ、セドリック・グロレの試食会が催された。新聞、雑誌、テレビなど食関係のジャーナリストを招いての会である。参加者70人を越える盛況であった。フランスの各メディアの記者を中心に、海外からの駐在記者を招いたという話であったが、わざわざロンドンやブリュッセルから駆けつけたと言うジャーナリストも居た。

 プレス担当の女性に案内された会場では、パティスリー部門のスタッフが出迎えてくれる。何れも年若いスタッフ達である。壁側に設えられたテーブルには、美味しそうなガトーの数々が陳列。

 招かれた側は好きな物を自由に注文して頂くと言うスタイルだ。スタッフの方の説明を聞きながら、とりあえず3種類のガトーを注文する。皿に盛られた美しいガトーの中からサントノーレ・ショコラ・フルール・ドゥ・セルと名づけられた品をミニ・フォークで口に運ぶ。上質ショコラに厳選された塩の風味が見事にマッチした大人の味、抜群の組み合わせだ。その後フルーツ系のタルト・オゥ・シトロン・アシドゥレ、栗の風味たっぷりのシャティーネ・ア・パルタージェを頂く。

 

 その間、セドリック・グロレがそれぞれのテーブルを回りながら挨拶、飾りのない対応振りも好感が持てる。今回は女性ジャーナリストの参加が多く、加えて皆さんお菓子好きと見え運ばれてくる新作が次々と胃袋に収まっていく。

 セドリックの作るガトーの一番の良さは、見た目の美しさ。口に入れるのが勿体無いと言えるほどの美しい出来栄えだ。特にフルーツを模ったシトロン、シェリーズ、ポムなどは色と言い型と言い本物そっくりに仕上げている。ショコラやキャラメル・コーティングの上手さは類を見ないほどの技だ。口に入れれば素材の良さが素人の味覚でも解る。期待どおりの秀作揃いである。

 

 ローヌ・アルプス地方のフリルミニ市の生まれ。13歳の時パン屋に研修、そこの主人に気に入られて弟子入りをする。14歳でパティシエ、ショコラティエ、グラシエの専門学校に入り主席で卒業。イサンゴー市で修行を重ねた後、パリのフォションに入社、パンとマカロン作りを担当するがシェフのクリストファ・アダムに認められ、北京店でのスタッフ育成を任せられる。北京から帰ってからは研究開発部に入り5年間所属。その間世界中にあるフォション店で人材育成を続ける。2011年高級ホテル、ル・ムーリスに移籍、スー・シェフを経て2013年シェフに抜擢される。そのお披露目が今回の試食会であった。お土産にガトー・ショコラの詰め合わせを頂く。家に持ち帰り久しぶりに紅茶を入れてそれを頂いた。しっとりした風味、香りと申し分ない出来栄えである。

 

 世界各国から集まったパティシエがフランス各所で修行中である。名のあるホテル、レストラン、パティスリーには必ずと言って良いほど、外国からの研修生が居る。一度は有名ホテルのデザートを作りたい、パティスリー修行中の若者の共通の願いであるようだ。