Vol.58 ル・ヴァランタン

 2月14日バレンタイン・デイは霙交じりの寒い一日だった。サン・ジェルマン教会近くのカフェ前で雨宿りをしている一組のカップル。腕を組みながら右手に一本の赤いバラを持っている。毎年この日に見かける一本のバラのプレゼント。豪華なブーケも良いが、このひと茎のバラが何ともおしゃれに見える。

 

ル・ヴァランタン

 日本でバレンタインの贈り物と言えば間違いなくチョコレートであろう。女性から男性への愛のプレゼント。何時の頃から始まったのか解らないが、この不思議な行為は、実は日本独自のものと言われている。誰が仕掛けたかも不明、まるで都市伝説のように広がり、今ではある種の社会現象になった観がある。

ル・ヴァランタン

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 フランスでもバレンタインの日が近づくとショー・ウインドーにバレンタイン用のディスプレーをする店が多い。特にパティスリーやショコラティエ、高級食品店の飾りが目に付くが、花屋や本屋でもハート入りのボード飾りやリボン飾りのパッケージが目立ってくる。

 

 数少ない晴日を選んでパリの店を回りウインドー・ショッピングを試みる。やはり上手いと思ったのが右岸ではエディアール、フォション、ラデュレの老舗。エディアールは紅茶の缶などを使ったハート型のディスプレー、シンプルだがインパクトがある。フォションはケーキの陳列がしゃれているが写真を撮るにはちょっとてこずった。ラデュレ本店はソフトカラーのパッケージを上手く使ってロマンチックな雰囲気を作り上げている。

 

ル・ヴァランタン

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 日本のショコラ好きが既に注目と聞く、ラデュレ・グループのショコラ専門店レ・マルキ・ド・ラデュレは、バンドーム広場に近いカスティニョン通りに昨年12月にオープンした店である。この界隈は高級ブティックが建ち並ぶ事で知られるが、この新店も回りに劣らず豪華な雰囲気を湛えた店である。ガラス張りから見る店内のディスプレーも豪華そのもの、バレンタイン当日も沢山の客で賑わっていた。通りの反対側にあるゴディバもすっきりとしてしゃれた飾りである。

 

ル・ヴァランタン ル・ヴァランタン ル・ヴァランタン ル・ヴァランタン

 左岸ではジェラール・ミュロ店の飾りがおしゃれだ。相変わらず人気、客数共に他店を圧倒した感じである。その他ウエイツやカカオ・エ・ショコラなどショコラ専門店の飾りがしゃれたデザインで印象的である。右岸の大型きらびやかな店に比べ、店構えも小さいが、味自慢の職人が多く、それを支持するショコラ・フアンが多いのが左岸の特色である。

 

 フランスでのバレンタイン・プレゼントは多種多様である。はっきりした統計では無いが、一番多いのはバラの花と言われている。その他、本やアクセサリー、最近ではスカーフなどのファッション小物も人気があるそうだ。勿論チョコレートもその中に含まれるが、バレンタインと言えばチョコレート一色の日本とはちょっと様相が異なっている。若者の間では値上がり続けるタバコをプレゼントに貰うのが嬉しいという、ちょっと想像出来ないような話もある。

 

ル・ヴァランタン

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 パリには数多くのパッサージュがある。中でも右岸に多く見られる屋根がガラス張りのアーケード式パッサージュは、18世紀から19世紀にかけて作られた物が多い。構造形式の美しさ、通りに面して建ち並ぶ各種ブティクの面白さなどに引かれ、この通り抜けを訪れる人が多い。

 

ル・ヴァランタン

 パッサージュ・ジュフロアはパリ9区、メトロ、グラン・ブルバード駅近くにあるおしゃれなパッサージュである。骨董店、古書店、レストランなど並ぶ中に落ち着いた佇まいのパティスリー、サロン・ド・テのル・バランタンがある。入り口のドアを押すとすぐ右にレジがあり、その前に立って対応してくれたのがオーナーのアメリーさん。スタッフの一人ではと思ったほど若いマダムである。

 

ル・ヴァランタン

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 アメリーさんがこの店を引き継いで2年半になるそうだ。その前も同じようにパティスリー、サロン・ド・テであった。店の構えはこのパッサージュにふさわしく、クラシックでエレガントな雰囲気を湛えている。古き良き時代の巴里を彷彿させる、そんな不思議な魅力を感じさせる店だ。

 

 店の奥にある厨房でシェフが丹精をこめて作り上げた各種ガトーが秀逸。見た目も味も申し分ない。いざ注文、ショーケースの前に立ちあれこれ見ながら選択に迷う。何れも美味しそうだ。贅沢な悩みを楽しみながら、ハート型チョコレートたっぷりのガトー、プティ・クールをひとつ選ぶ。これに合わせて紅茶を注文。紅茶に興味ある方なら、お願いして、注文前に香りを試みるといい。およそ30種類の紅茶が揃えてある。何れもアメリーさん厳選のものばかりだそうだ。

 

ショコラの種類も豊富、お茶を楽しんだ後お土産にする人が多いそうだ。お土産と言えば自家製のジャムが人気との事、7.50~10ユーロとちょっと高めの値段設定だが味は保障。お腹のすいた方なら軽食を楽しむ事もできる。ちなみに、フランス語が出来なくても臆する事は無い、片言英語でも充分に対応してもらえる。

 

ル・ヴァランタン

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 随分前の話だが、この店には一度来たことがある。近くに有名なモード学校があり、そこに通う日本人学生とこのパッサージュにあった中華レストランで昼食を一緒した。今は無くなっていたが、安くて美味しいと、学生達のたまり場的なレストランだった。その帰りに寄ったのがこの店である。

 

 その時頂いたのがモンブランだったような。フランス東北部ロレーヌ地方のお菓子が当時のこの店の名物であった。所狭しと並んだ各種ガトー、キッシュ、焼き菓子の記憶がある。あれから10数年が経ったが、当時に比べ、その面影は残しながらも、明るくすっきりした店になっている。

 

 オーナーのセンスの良さ、拘りがそのまま店に生かされた感じだ。二階にも広いスペースがある。バレンタイン・デイにヴァランタンでお茶とガトーを楽しむ偶然。ひとりだけのティ・タイムでロマンティックとは程遠かったが、それなりに満足のいくひと時だった。セント・バレンタインをフランスではサン・ヴァランタンと呼ぶ。

 

 パッサージの突き当たりにプチ・ホテル、ショパンがあり、外から若きショパンの石膏像が見える。ホテルの横には有名な蝋人形館もある。